季節の便り アーカイブス

第8回

三たびの夏

 暑かった今年の夏も終わりに近づいたが、今年はやるせなさを通り越したやり場のない怒りのようなものを感じながら、秋を迎えることとなった。今年で、コロナウィルス禍の夏をもう3回も過ごしたためである。

 思えば、3年前の2019年の夏には、スイスのジュネーヴでGWIの100周年記念大会が開かれていた。加盟している50か国の会員約400名が世界中から集まり、日本からも30余名の会員が参加した。多くの発表、ワークショップ、そして、最終日のレマン湖クルーズなど、盛りだくさんの催しがあり、毎日が熱気に包まれていた。いろいろな国から来た人々との交流もその楽しみのひとつであった。あるイギリス人の参加者の方とは、大会が終わった2日後にジュネーヴ空港でばったりお会いし、お互いその偶然に驚き、喜んだりしたことも懐かしい思い出として残っている。

 しかし、それから半年後、日本においては、大型クルーズ船の乗客が新型コロナウィルスに感染する、というできごとを発端に、あれよあれよという間に全国に感染が拡大していった。コロナウィルスは同時にまたたく間に世界中に広がり、ヨーロッパにおいても国境を閉鎖する国が増していった。私の身近にもイギリスやイタリアに留学したのに、わずか半年で切り上げ、3月末には日本に戻らざるを得なかった学生が何人もいた。

 この2020年という年には4月に入っても感染が収まるきざしは一向になく、緊急事態宣言も出されて、全国で日常のさまざまな活動ができなくなってしまった。ほとんどの大学が門を閉じ、授業はリモートで行われ、大学生がキャンパスや図書館から姿を消してしまった。私たちJAUWにおいても、5月に予定されていた愛知での総会は中止され、この年7月に行われるはずだった東京オリンピック・パラリンピックも1年延期が決定された。

 その後のことはもう改めて書く必要もない位、私たちの脳裏にしかと刻まれている。JAUW総会は翌年も対面では開催されなかった。1年延期された東京オリンピック・パラリンピックは、コロナ禍の中でまるで人々の目を避けるかのように、バブル方式という観客との接触を断つ形で、無観客の中で行われた。オリンピックの理念はどこに行ってしまったのだろう、というのが大方の感想ではなかっただろうか。

 コロナ禍3年目の今年の夏は、日本でもさまざまな規制が取り払われ、欧米においては、マスクも不要になり、ヴァカンス客も多いというニュースが流れ、日常が戻ってきたように感じられる。だが、コロナウィルスは変異を続け、流行の波を繰り返しながら、3年目の今年の8月19日には全国で26万人を超えるほどの感染者を出している。第1回目の緊急事態宣言が発せられた2020年4月7日の全国の感染者が368人であったことを思い起こすと、その増加率のすごさは戦慄を覚えるほどである。全世界的にも今年の8月には感染者6億人という信じがたいほどの数に達している。

 そのようなコロナウィルス禍では、今までは考えられなかったようなシステムも生まれてきた。その際たるものは〈リモート〉の出現であろう。リモート会議、リモートワークなどの言葉が、日常語になり、日本人の働き方改革ともいえるものになっていった。JAUWの委員会においても、オンラインでの開催が多くなっている。そのため、東京から遠い支部の方にも委員会に参加いただけるようになり、これはコロナ禍の予想外の副産物といえる。JAUWのセミナー、シンポジウムもこの2,3年はハイブリッド形式で行われ、オンラインでの参加が可能になったことも新しい試みである。

 このようにオンラインでの会参加ということにより、日本全国のみならず、世界中がつながるシステムができたことは、革命的だと歓迎する反面、人々が交流すること、触れ合うことを犠牲にしている、という思いも私にはある。それを強く感じたのは、先日、私が所属している日本ヴァージニア・ウルフ協会と韓国のウルフ協会とによる合同の国際学会が3年ぶりにハイブリッド形式で開催された時のことだった。日韓の若手や中堅の研究者たちの熱い議論など、大変聴きごたえのある学会であったのだが、大勢がZOOMで参加する以上、顔なし、声なしの参加が基本であり、いつものような学会メンバー同士の交流がなく終わったことには物足りなさを感じずにはいられなかった。便利さを手にしたものの、大切なことは十全には得られないままだ、という想いを強く持ったのであった。

 今年、3年ぶりに行われるGWIの世界大会はオンラインでの開催である。新型コロナウィルスが今後どうなっていくのかはまだまだ予測できないし、3年近くも人類が目に見えないウィルスに翻弄されたままでいることの腹立たしさは、誰しもが抱いている思いであろう。だからこそ、コロナ禍から解放されたときの社会が、パンデミックにより失われたものを早く回復し、今まで以上に暮らしやすい風景になっていくことを切に願うものである。

調査研究、生涯学習担当理事 窪田憲子

 2022年9月15日