第2回例会講演要旨

国連と女性・女児の人権―第68回国連総会第3委員会に出席して―  講師:鷲見八重子(国際ネットワーク委員会委員長)    2014年9月27日

 

鷲見八重子さんのプロフィール

津田塾大学英文科卒業、同大学院修士課程修了(専攻:英文学)後、和洋女子大学に45年間勤務、2012年退職、名誉教授、その間コーネル大学、ケンブリッジ大学訪問研究員。専門は英文学(現代女性作家研究)で、編著に『イギリス女性作家の半世紀』、『マーガレット・アトウッド』ほか多数。現在、認定NPO法人国連ウィメン日本協会理事、日本キリスト教婦人矯風会理事、国際婦人年連絡会委員など、幅広く活躍されている。JAUWでは、2004年から社団法人大学女性協会の奨学金事業の制度作りに携わり、2006〜07年度田中正子会長のもと副会長を務める。現在は国際ネットワーク委員会委員長。JAUWの推薦により2012〜13年に第67回・第68回国連総会第3委員会政府代表顧問として国連でご活躍になった。今回の講演は2013年10月7日〜11月1日間に開催された第68回国連総会第3委員会に政府代表の1員として出席された時の報告である。

 

市川房江と国連NGO国内婦人委員会について

国連は政府間会議であるのに、何故NGOから女性代表が出席するのかというと、国連NGO婦人委員会は当時参議院議員だった市川房江の尽力で1957年8月に設立されたもので、国連憲章に示された目的を実現するため次の運動を行うとしてあげられた4つの項目の中に、「国連関係会議への代表にNGOの女性を加えるよう政府に申し入れる」というのがあり、その申し入れが取り入れられたのである。どれだけ市川房江に先見の明があったかが良く分かる。そこに参加できる国際的女性団体のなかに大学女性協会が入っていて(他の団体としては、日本YWCA, 汎太平洋東南アジア婦人協会、日本女性法律家協会、日本女医会など8団体)、藤田たき津田塾大学学長・JAUW会長が初代から連続して3回代表を務めた。その後代表を務めたJAUW会員(ほとんどが会長)は、中村道子、山崎倫子、伊東すみ子、野瀬久美子、江尻美穂子、青木怜子、房野桂、鷲見八重子である。他国に例のない素晴らしい制度だと評価されている。

 

国連第3委員会とは

日本国連代表部には56人の外交官が勤務している。国連への拠金は年2億7650万ドル、国連予算の10%を占め、1位のアメリカについで2位である。国連第3委員会は国連総会を補佐する6つの委員会の1つであり(たとえば、第1委員会は「軍縮、国際安全保障」を取り上げる)、国連執行部と加盟193ケ国によって「社会・人道・文化」にかかわる10項目の議案が毎年討議される。たとえば2013年は、日本は、1)「社会開発」、3)「女性の地位向上」、4)「子どもの権利促進と保護」、5)「先住民族の権利」、6)「人権の保護・促進」の5項目に関して、担当外交官が日本政府のステートメントを読み上げ、日本での1年間の取り組みの結果を発表した。3)「女性の地位向上」では、女性の地位向上と能力開発、女性の健康・保健などについて3年間で30億ドルの支援を国連に送ったこと、「女性に対する暴力撤廃基金」に100万ドルを支援したこと、日本政府は「女性が輝く社会」を目標に掲げ、男女が仕事・子育てを両立できる環境整備、M字カーブ解消、就業率アップなどに取り組んでいる状況を報告した。また4)「子どもの権利促進と保護」では、日本の子どもの貧困率は、非就労のひとり親の場合、平均61.6%に対して52.5%だが、就労するひとり親世帯の場合、平均21.3%に対して54.6%と非常に高いことを指摘し、母子世帯のワーキングプアーの典型で、女性の貧困の解消なくして子供の権利保護はあり得ないという観点から、その解消に様々な施策を通じて取り組んでいると述べた。

 

韓国の場合は、本国から、若くて美しい女性のジェンダー平等家族省大臣が出席して、慰安婦の問題を持ち出した。彼女たちは高齢になり、数も少なくなっているが(10数人)、1人1人に面接して聞いたところ、「時は限られている。」「日本国家として真摯な謝罪が欲しい。」「個人の人権を守るのが国家の使命ではないのか。」と主張していると、真っ向から日本を非難してくる。2012年には同じことを北朝鮮が日本に対してやってきた。拉致問題を非難されたのだが、どこ吹く風で、それを慰安婦の問題にすり替え、日本に対する非難を繰り返してくる。ステートメントの中で特定の国が非難された場合には「答弁権」が行使できるので、日本国連大使が、両国間の問題はすべて法的に解決済みとなっていると述べた上で、慰安婦への謝罪を表明し、民間の募金を活用して「償い金」を支払ったアジア女性基金の取り組みも紹介するが、オウムのように同じことを繰り返し主張する。彼らのことは周囲の人たちも分かっていて、たとえば、安保理1325議長チャウドリさん(バングラデシュ)は、「いいんだ、いいんだ、国連はよく分かっているんだから。」と私たち日本人を慰めてくれる場面もあった。それにしても、美人で英語のスピーチの上手な女性大臣を戦略的に使って攻撃してくるしたたかさに対して、大人しい日本の国連大使がぼそぼそと、下を向いてペーパーを読むだけで釈明している図は、なさけない限りである。

 

今年の国連の活動

今年は、「女性・女児の人権」がテーマなので、国連では多くの関連発表があった。たとえば、事務総長特別代表ザイナブ・ハワ・バグーラ(シエラレオネ出身)による「紛争下の性暴力」の中では、「敵対する国や民族の女性を凌辱するのは、最大の屈辱と恐怖であり、兵士の士気低下、コミュニティ崩壊をもたらす犯罪」であるとして、犯罪当該国の現場における取組強化を訴えている。イスラム国がやっていることはまさにこれである。また、事務総長特別代表マルタ・サントス・パイスによる「子どもに対する暴力」の中では、1)子どもに対する暴力の客観的データ――子ども自身の意識と体験の調査、2)「児童ポルノ」国際的取り組みに関する発表があった。ここでは私が、子どもに対する暴力の問題に関して客観的データがあるのか、との質問をしたところ、素晴らしい質問だ、と褒められたが、具体的なデータはないとのことだった。

 

2011年に制定された「国際ガールズ・デ−」を記念して、「Ending Child Marriage」と題するハイレベルパネルが開かれ、バングラデシュの女性子供省大臣、国連人口基金事務総長、ユニセフ(国連子ども基金)事務総長、ニジェールの活動家などがパネリストとして参加していた。ニジェールの活動家のアガリさんは16歳の時、50歳で妻子のある男性との結婚話が持ち上がり、兄に助けを求め、1000マイル離れた非難所へ行き、奨学金を得て学校に行き、児童婚廃止の活動家になった。ニジェールでは15歳未満の9人に1人が児童婚をさせられるということである。イエーメンでは6歳で結婚、アフガニスタンではヘロインのために16歳の娘を60歳の男に売る。インドでは8歳で血縁のきょうだいと結婚、などの悲惨な様子の映像が写された。貧困、宗教、慣習、女性蔑視、性暴力などが理由で、子どもの権利が侵害されているということである。法律の制定がまず必要であるとあるパネリストは言う。

 

また、NGOCSWパネル展示(Journey to School)では、リビアでは戦車砲の前を通って学校に行く女児、インドではスラム街で溝をまたいで学校に行く男の子、ギアナではカヤックに乗って学校に行く子どもたち、ブラジルではロバに乗って学校に行く子どもたち、などの写真があった。それらを見ると、世界中で多くの子どもたちがいかに悲惨な環境にあるか、子どもたちが教育を受けることがいかに大切かが、じかに伝わってくる。

 

最後に

「女性・女児の人権」をテーマとした2013年の国連総会で、日本の課題として浮かび上がってきたのは、ジェンダー・ギャップ指数の問題である。世界経済フォーラム報告によると、日本のジェンダー・ギャップ指数(男女格差の比率)は、135ケ国中、政治118位(衆議院での女性議員数は約8%、参議院では約11%)、経済104位、教育91位、健康34位、総合で105位である。また、「女性の活躍」の問題点としては、女性と子どもの貧困(シングルマザーの賃金格差)がある。女性のワーク・ライフ・バランスを良くするためには、男性の労働時間短縮、妊娠・出産・育児による不利益をなくす社会環境の整備が早急に求められている。

 

最後に、国連は財政困難に直面している。色々な問題点も抱えている。しかし国連総会第3委員会に出席したことで、加盟193か国が毎年このように集まって、英知を集め討議する現場の重みを実感することができ、世界の平和への希望をもつことができた。ご清聴ありがとうございました。

 

    

 

国連第3委員会にご出席になった鷲見さんの熱のこもった報告は、とても具体的で、興味深いお話しを挟みながらなさったので,聴衆の皆さんはスクリーンのパワーポイントの画像とお話しにくぎづけだった。お話しが終わって、各支部からの参加者が自己紹介を兼ねながら、講演の感想を述べたが、皆さん異口同音に、お話が興味深く、今まで遠い存在だった国連が身近に感じられたこと、鷲見さんの国連での活動が素晴らしかったことがよく分かった、などの感想を述べられた。また、支部では会員の高齢化、会員数の減少が続き、あまり活気のある活動はできないが、鷲見さんがこのようにお元気で活躍していらっしゃるのを見て、その元気をいただいたので、支部に帰って皆にお話をしようと思う、とおっしゃった人もいた。国際的に重要な活動をしているJAUWの側面を改めて認識したとの感想もあった。

 

国連は財政難だし、常任理事国の利害が対立して、しばしば機能不全に陥るので、存在が本当に必要なのか、疑問視する人もいるが、鷲見さんのお話を聞いて、やはり必要な組織であり、その活動によって少しずつ世界の改革はなされているのではないかと思った。一番印象に残ったのは、若くて美人の韓国のジェンダー平等家族省大臣が、上手な英語を駆使して慰安婦問題で日本を攻撃してきた時、それに対して日本国連大使が、下を向いてペーパーを読むだけの釈明をしている映像で、それを見た時は本当にがっかりした。韓国の女性が強制的に日本の官憲によって連れ去られ、慰安婦にさせられたという吉田証言が虚偽だったということを、虚偽だったことが分かってから32年間放置しておいて、今年やっと朝日新聞がそれを認め、謝罪し、社長が引責辞任をした。政府はそのことを国連で報告したり、色々なところで誤解を解く活動をしているが、国連で働く外交官も、上役の顔色ばかり見て事なかれ主義で済ましていないで、国家の名誉回復のために戦う気概を持ってもらいたいものである。

 

今回の鷲見さんのお話しで、世界の女性・女児がいかに悲惨な環境にあるかを、改めて認識した。今年ノーベル平和賞はパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17歳、「女子に教育を」という運動をしていて凶弾に倒れたが、奇跡的に助かった)とインドのカイラシュ・サティアルティさん(児童労働から80万人以上を救った)が選ばれたが、国連のこの女性・女児の人権活動が注目されていたからだろう。日本の女性・女児の問題の改善・解決もこれを機に加速してもらいたいものである。良いお話を聞かせていただいて、今後の鷲見さんのさらなるご活躍を祈りつつ、閉会となった。

 

閉会のあと、鷲見さんが新幹線でお帰りになるので、その時間まで、京都駅前のタワービル3階のレストランで、有志が鷲見さんを囲んでお食事をご一緒した。大阪支部からは2名が参加なさった。 鷲見さんは講演を含めて長時間おつきあい下さったが、お疲れの様子もなく、背筋をピンと伸ばしたまま、歓談していらっしゃったので、皆が感心することしきりだった。有意義なお話しに心から感謝を申しあげて、お別れをした。