2014年度京都支部総会報告と講演要旨

「レーダーを使って大気を測る−信楽とインドネシアからの研究紹介−」  講師:山本衛教授(京都大学 生存圏研究所)     2014年4月19日

 

支部総会は出席者20名、委任状13名で成立。今年は中川慶子支部長の支部長職2期目の最後の年になるので、その抱負を次のようにお話しになった。

 

「現在、少子高齢化がますます進行し、政治・経済も大きな変革の中にありますが、私たちのこの京都支部は、真面目に、ゆっくりと、みんなで話しあいながらこの1年間、会の運営に努めてまいりました。昨年度は特に世界に目を向けて取り組んできた感があります。今年も会の目的に沿った面白い企画を考えたいと思っています。また、会員を一人でも増やして、会員40人を切らないようにみんなで努力していきましょう。今年は改選の年に当たります。バトンタッチがうまくいきますように皆様よろしくご支援、ご協力方お願いいたします。」

 

その後、2013年度事業報告、会計報告、監査報告ならびにその他の活動が各担当から報告され、ついで今年度の事業計画、会計予算が承認された。例年にならってホームページの記事その他をまとめた冊子『2013年度京都支部活動報告』が配布された。また、JAUWのホームページが今年度から外注になり、リニューアルされた旨の報告があった。

 

昼食のあと、山本衛(やまもと まもる)教授の講演をお聞きした。昨年度のJAUW国際奨学生として来日したマレーシアのシティさん(Siti Husniah Chumiran)が、山本先生のもとでレーダーによる大気観測技術の研修を受けたということもあり、そのご縁で、先生のお仕事、シティさんの研修の内容などをお話ししていただくことになった。(シティさんは、妊娠後期だったということもあり、予定を早めて帰国しなければならなかったが、山本先生の親切な指導のおかげで期待していた以上の成果をあげることができたととても喜んでいらっしゃった。)以下,その講演の要約である。

 

        

今日はシティさんの研修の内容をまとめてお話しようと思っていたが、忙しくてまとめる時間がなかったので、彼女のことには少し触れて、あとは主に私の研究のことをお話しする。

 

京都大学生存圏研究所はインドネシアに大きな観測装置を作り、大気の観測を行っている。同時にそこで国際学校を開いていて、色々な国から学生が講習を受けに来ているが、そこにシテイさんが出席していた。2012年夏にそこで講習会があり、私がレーダーのことを話したところ、彼女が関心を持ち、私のところで研修を受けたいということで、私が引き受けた。彼女の国マレーシアでは集中豪雨が年中あり、洪水に苦しんでいる。そういう自然災害を防ぐために、国内に気象レーダーのネットワークを作って予報のシステムを作り上げたいというのが彼女の希望だった。レーダーのことは何も知らず、見たのも初めてではないかと思う。レーダーとはこんなものという基本的な知識と操作を教えた。われわれのところのものは大気レーダーで、彼女が必要なのは気象レーダーなのだが、隣に京都大学防災研究所があり、そこで気象レーダーを使って洪水の研究をしている研究者がいたので、彼女をそこに紹介した。彼女の今回の滞在は、研究をしたというよりは、必要な知識・情報を集めたといえるが、今後の彼女の目的のために役に立つのではないかと思っている。

 

「生存圏」とは何か

さて、私の所属する京都大学生存圏研究所(Research Institute for Sustainable Humanosphere)だが、「生存圏」というのはあまり聞きなれない言葉だと思うので、それを説明している研究所のPRビデオを見ていただくことにする。――「世界人口の急増ならびに産業発展にともなうエネルギー・資源不足、さらに地球温暖化で代表されるグローバルな環境変化が21世紀の重要な社会的課題となっています。生存圏研究所は京都大学が法人化された2004年に発足した研究所です。大気圏、宇宙圏、森林圏、生活圏から構成されている領域と空間を人類の生存に必要な生存圏(Humanosphere)としてグローバルにとらえ、その状態を正確に診断し、現状と将来を学術的に正しく評価し、さらに治療、修復を行い、持続可能なものにしていくことを目指しています。・・・当研究所には国内外に研究施設が多くあり、それらは世界の研究者が利用できるように解放されていて、国際共同利用を推進しています。・・・」私は上の4つの圏の中の大気圏を研究する「レーダー大気圏科学分野」を担当する教授として、レーダーによって大気を測る研究をしている。

 

「レーダーで大気を測る」とはどういうことか

まず我々の使うレーダーとはどういうものかを説明しよう。レーダーはアンテナが1つ、送信機、受信機が1つずつのユニットでできている。強烈な電気を短時間アンテナに流し、そこから電波あるいは光を出して、大気圏から宇宙に近い所までを遠隔探査(remote sensing)する。電波が空中を飛ぶ時に起こる現象を分析することによって、大気の様々な情報が取れる。具体的には、たとえば、地球温暖化にも関係する大気微量成分の研究、流星・宇宙塵の立体的解明、などである。

 

大気レーダーと聞くと普通はパラボラアンテナを思い浮かべるが、それは気象観測用のレーダーで、ぐるぐる回って雨、台風など強い気象現象をとらえ、計測するが、われわれの使うものは、それよりさらに上空の、雲も雨もない大気が標的で、下から真上を見上げるアンテナである。そのアンテナがどのように使われているかを見てみよう。

 

信楽MU観測所とMUレーダー

30年前(1984年)に滋賀県甲賀市信楽町神山の山頂で、直径100mの窪地に475本のアンテナを立てて、MUレーダー(Middle and Upper Atmosphere Radar(中層・超高層大気観測用大型レーダー))を設置して観測を開始した。このアンテナから出る電波を電子的に制御することによって、アンテナのビームの方向を変えることができるので、全体が剣山のようになって巨大なパラボラアンテナと同じ働きをしている。最初は試行錯誤を繰り返したが、うまく機能するようになったので、10年ほど前に、インドネシアに赤道大気レーダーを設置することになった。

 

赤道大気研究への取り組み

インドネシアでは1990年代から気象観測を始め、インドネシアの研究者と共にさまざまな研究活動を行ってきた。生存圏研究所主催のシンポジウムも何回か開催し、研究発表と交流の場を作り、国際的な研究の輪を広げてきた。これらの研究の1つの集大成として、三菱電機と共同で2001年、赤道大気レーダー(Equatorial Atmosphere Radar)を開発し、スマトラ島の赤道直下付近に設置し、観測を開始した。

 

赤道は緯度の低い所にあり、太陽が常に真上にあるから、気温が高く,熱射が入りやすい。太陽からの放射エネルギーが一番集中的に降りてくるのは赤道付近。特にインドネシアの赤道付近は強い対流現象が起きて、積雲活動が地球上で最も活発である。大気が上下に撹拌される現象が非常に強い。そういう所にレーダー装置を置いて観測をし始めて15年ほどになる。スマトラ島のほぼ赤道直下のところで、直径110mの場所にアンテナ560本の赤道大気レーダーを設置したが、これは感度が低いので、アンテナ1045本の赤道MUレーダーを併設した。大気レーダーとしては世界最大規模のものになり、それによって赤道大気の観測感度と機能は飛躍的に高まり、赤道大気の構造・運動の解明に大きな役割を果たしている。

 

 

現在までの成果とまとめ

京都大学生存圏研究所は今までに、どのような研究成果を収めているのだろうか。宇宙圏の部門はロケット2つを打ち上げた。私たち大気圏のグループはそれにセンサーを乗せ、ロケットが落下するまでの間に取れるデータを電波で回収して、あとでそれを解析している。➁MUレーダーをはじめとする多くの大気レーダーを開発し、大きな成功を収めてきた。小型レーダーを開発したが、それが気象庁によってウィンダス(Windas)として実用化され、日々の天気予報に役立ち、大きな社会貢献をしている。➃MUレーダー技術を応用してインドネシアに赤道大気レーダーを設置して、赤道域の大気の解明に大きな役割を果たしている。➄MUレーダーの技術を使い、国立極地研究所が南極にMUレーダー級の大気レーダーを設置しつつある。

 

研究所では、生存圏を持続可能なものにするという目的でいろいろな角度から研究が進められているが、生存圏のほとんどのことがまだまだ解明されていないというのが現実である。私としては「レーダーで大気を測る」場合の観測技術の改良を研究したり、他の観測手法を組み合わせたりして、より良い方法を発展させたいと思っている。どうもご清聴ありがとうございました。

 

        

 

お話が終わり、お茶を飲んだあと質疑応答の時間に移った。ある人が後で、「まるで雲をつかむようなお話しだったわね」と洒落た比喩を使った感想をおっしゃっていたが、全くその通りで、「レーダーで大気を測る」というあまりに想像を絶する世界のことだったので、皆さんからはしばらく沈黙が続いたが、やっと人心地を取り戻して、質問が始まった。

 

「機械が故障したらどうなるのですか」という質問に対しては、アンテナの数が多いから、中にはノイズを出す場合もあるが、故障が発見されるとそのアンテナの電気を一時止めて修繕する。しかし多くの中の数本なので、全体にはあまり影響がない。そばに発電所があり、そこから全体に送電しているので、そこが止まると大変だが、そのバックアップ・システムは完全にできているので心配はない、とのことだった。アンテナの数が多いので、その維持・修理は大変だそうである。

 

「現在大気汚染が問題になっていますが、それはこのレーダーで分かるのですか」との質問には、レーダーで物質の組成を測るのは難しい。私たちのレーダーは主に動きを測るものなので、組成の場合は、実際にそこまで行って採取して来るなどしない限り分からない。光を使うと、特定の物質が特定の光を反射したり、吸収したりすることがあるので、可能な場合もあるが、われわれの場合はそれはやっていない、とのことだった。

 

「最近世界的に異常気象が頻発し、また地球温暖化現象が言われていて、IPCC

(国連気候変動に関する政府間パネル)は、この世紀末までには気温が6度も上昇するとの予想を出していますが、それをどうお考えになりますか」との質問に対しては、なぜあんな風にちゃんとした数字を出して言えるのかな、と少し疑問に思っている。あのグループは警告を出すのが仕事なので、強めに言っているのではないかと思うが、歴史的にみると、地球の温暖化・寒冷化は、むしろ太陽の黒点の活動に左右されているという事実があるから、そう簡単には断言できないように私は思う、とのことだった。先生は、もっと長いスパンで、そしてさまざまな要因を取り入れながら考えたほうがよいと、地球温暖化を単純に断定することには否定的な口ぶりだった。

 

「女子学生はこの分野にはどのぐらいいるのでしょうか」という質問に対しては、気象情報会社ウェザーニュースに入社した大学院卒業生がいるが、修士の卒業生で東京三菱UFJ銀行に入社が決まっている女性もいるし、さまざまではないだろうか、というお返事だった。やはり専門を続けるのは難しいのではないかとの印象を受けた。気象予報士の資格を大学の2回生でとっている女性がいるが、その人が自分たちの大学院にきてくれれば良いと思っているとのことだった。

 

        

 

以上、京都大学生存圏研究所のこと、そこで先生がなさっている研究についてのお話しを聴いた。この研究所は多種類の研究を包括していて、先生のレーダーで大気を測る分野以外に、たとえば、宇宙圏の分野では2回もロケットを発射しているし、一方、森林圏の分野では木材の腐敗,害虫などの研究が行われている。そしてそれら多種類の研究の全部が、この生存圏を持続可能なものにするという共通の目的を持ってなされていて、ある意味ではわれわれの生活に直接関係していると考えると、改めて非常に興味深いお話だった。

 

以前に、電気器具などに使われていたフロンガスが廃棄され蒸発して、それがオゾン層を破壊し、いわゆるオゾンホールがたくさんでき、そこから有害な太陽光線が直接人間に当たり皮膚がんを誘発するということで、フロンガスの使用が禁止されたが、禁止によって今ではオゾンホールは自然に修復され、問題は解決されている。そのように、近代文明によって行われるさまざまな自然破壊が、研究者の皆さんの地道な研究によって修復され、持続可能な地球環境が取り戻されることを心から願って、山本先生のお話に厚くお礼を申し上げた。