第4回例会講演要旨

「認知症とその予防」  講師:澤田親男医師(北山病院 院長代行)     2014年3月15日

 

澤田先生は、京都府立医科大学の精神科を卒業のあと、平成12年から北山病院の心療内科に勤務

し、23年からは院長代行として、主に認知症を専門として、認知症患者の治療にあたっている。

 

現在急速に人口の高齢化が進む日本では、高齢に伴うさまざまな疾患が問題になっているが、そ

の中でも、やはり癌と認知症とが2つの大きなものといえる。癌は、人口の3分の1がかかるとい

われているが、しかし最近は早期発見によって治る可能性のある病気になってきている。それに比

べて認知症は、あまりよく分からない病気と思われているのが実情ではないだろうか。認知症の人

の数は近年増加の一途をたどっている。この病気は高齢者に現れることが多く、7579歳では全体

7.1%、8084歳では14.6%、85歳以上は27.3%が認知症患者である。厚労省研究班の調査に

よると2012年時点で、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は推計15%で、約462万人に上る。

それ以外に、認知症になる可能性のある軽度認知障害の高齢者も約400万人いると推計され、65

以上の4人に1人が認知症とその“予備軍”となる計算である。この病気の原因は多様で、その治

療法もまだ分からないことが多い。従って、それについて正確な知識を持つことが非常に重要にな

ってくる。

 

認知症とはどのような病気;その原因は

認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったために様々な障

害がおこり、生活上で支障がでている状態を言う。その原因としては次のようなものがある。@ア

ルツハイマー病などに代表される、脳(例えば、記憶をつかさどる海馬)の神経細胞がゆっくりと

死んでいく「変性疾患」で、認知症の約半分を占める。A脳梗塞や脳出血によりその箇所の脳神経細

胞が死んでしまう「血管性認知症」で、認知症の約4分の1。Bその他、水頭症、硬膜下血腫、感染

症などが原因のものなどがある(これは治る認知症)。

 

認知症の症状

認知症の中核症状は外因性精神障害と言える。

  中核症状:記憶障害(物忘れがひどくなる)、判断力低下、見当識障害(日時、場所、人が誰か

分からなくなる)、言語障害など。

 周辺症状には心因性のものも多い。

   周辺症状:意欲の低下、不安、不眠、興奮、抑うつ、妄想、徘徊、暴力など。

   日常生活能力の低下:食事、トイレなど日常生活の行動が出来なくなる、歩行障害。

 

加齢による物忘れと認知症とは違う。例えば、お昼に何を食べたかを忘れた場合、加齢の物忘れ

は、人が言えば思い出すが、認知症の場合は、食事をしたことも忘れてしまって思い出せない。以

上のような事柄が頻繁に起こり、おおまかに言えば、自分一人で日常生活が送れない程度から認知

症といえる。一般的には、周囲の人がおかしいと思い病院に連れて行き、専門医のテスト、検査な

どで総合的に判断が下される。自分ひとりで病院に行くこともある。

 

認知症の治療

認知症は治らない病気とされ、しばしば対症療法しかないと思われているが、実際には根本的な

治療が可能な認知症と呼ばれる病症が多くみられるようになっている。それぞれのタイプに合う多

くの有効な薬が開発されているので、症状に応じて医師が適切に使い、リハビリなどを行うことで、

進行を遅くするとか、現状を維持するとかができるようになってきている。

 

認知症の予防方法はあるのか?どのような生活をすればいいのか?

 予防できる認知症はある。例えば、血管性認知症は、脳梗塞、糖尿病、高血圧などで発症するの

だから、その様な状況を起こす生活習慣、たとえば過度の飲酒、喫煙などを止める努力をする。地

中海料理、和食など、魚介類、野菜を多く取る食生活をし、適度な運動、他者との交流、趣味を持

った楽しい生活など、良い生活習慣を心がけることで、認知症になりにくくなる。 

 

行政の対応

厚生労働省は、平成24年に厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチームを立ち上げ、今後の国

の認知症対策の方向性について検討を開始した。まず提案されたのは、「オレンジプラン」と称す

るものである。具体的な対応方策は次のとおりである。

1.標準的な認知症ケアパスの作成・普及

2.早期診断・早期対応

3.地域での生活を支える医療サービスの構築

4.地域での生活を支える介護サービスの構築

5.地域での日常生活・家族の支援の強化

6.若年性認知症施策の強化

7.医療・介護サービスを担う人材の育成

 

京都府は、上記のプランにそって、「京都式オレンジプラン」を立ち上げ、@認知症の専門医を

指定し、A認知症サポートリーダーが講座を開き、認知症サポーターを育成し(京都市のサポータ

ーは平成243月時点で36,487人で、その人たちは地域の認知症の人たちの支援活動をする)、

B(左京区の取り組みとして、)高齢者にやさしい店」のステッカーを掲示した店は、地域の高齢

者をささえ、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりの推進を目指す、などの活動を行って

いる。

 

   

 

以上、認知症という病気の話と、それを支える地域の問題の話をしました。老年期における適応

にはいろいろなタイプがありますが、老年期を積極的に受け入れ、自分に可能な目標を見つけ、そ

れを楽しみながら生活するという「円熟型」の生き方をお勧めしたいと思います。周囲の人は、高齢

者に対して、認知症や統合失調症など精神疾患をもっている人も、持っていない人と同様に個性が

あり、適応のパターンが人それぞれ異なることに留意して、それぞれが自分の人生を受け入れるよ

うに援助してほしいと思います。認知症の人も、認知症でない人も、高齢者も、高齢者でない人も、役割

意識が必要で、一日一回は誰かに「ありがとう」と言われる人生を送ってほしいものです。ご清聴ありがと

うございました。

 

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 認知症というと、脳の機能がだんだんと衰え、人格が破壊され、人が人でなくなっていく悲しさ

ばかりを感じていたので、今日は暗い気持ちで帰っていくのかと思っていたら、澤田先生のとても

朗らかで、陽気な語り口のお話を聞いている間に、治る認知症の話もあり、また、薬とリハビリで

進行を遅らせることもできるということをきいて、だんだん希望が甦ってきて、明るい気持ちにな

ることができた。また、対応の仕方で、認知症患者の徘徊、暴力などが無くなり、穏やかな生活を

取り戻せるという症例のお話は本当にほっとするものだった。

 

 参加者の多くが高齢者だったこともあり、ご自分のこと、友人のことで、切実な質問が多かった。

病院の「物忘れ外来」で検査を受けて、何ともないとの診断をもらってほっとした、とおっしゃっ

た人もいた。しかし先生が、明るい、朗らかな口調でユーモアたっぷりに、しかも的確にお答えに

なるので、皆さんも明るい気持ちになれたのではないだろうか。質問の時間はずっと笑いにつつま

れていた。認知症患者も、この先生が自分を全面的に受け入れてくれていることを本能的に感じて、

素直でオープンな気持ちになるのではないかと思った。「初めて体系的に認知症について勉強した」

という感想も聞かれ、知ることの大切さをあらためて感じた。いろいろなことが勉強できた2時間

だった。